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● シロツメクサの咲く頃に  ●

 雨の日にあなたと二人、公園へ行った。

 その公園には遊具はなくて、あるのは一面の芝生と噴水だけ。太陽が出ているときは親子連れで賑わっているけれど、今日はあなたと私の貸切状態。

 あなたが手にしている大きめの傘に雨が弾ける。傘を伝った雨粒が私の肩を濡らしたけれどあなたは気がつかない。一面に白い花を咲かせているシロツメクサがきれいだったから。

 シロツメクサはその葉に、透明なしずくを幾つものせている。太陽は雲に隠れているけれど、そのしずくはキラキラと輝いて見えた。

「これを金剛石とは、よく言ったものだね」

 あなたの唐突な科白。初めの頃は戸惑ったけれど今ではもうお手の物よ。

 金剛石はダイヤモンドのこと。そして宝石のように輝いているしずくをダイヤモンドに見立てたのは宮沢賢治。

 私は息を吸って、小さく歌った。


 ザッ ザ ザ
 ザザァザ
 ザザァザ
 ザザァ

 ふらば
 ふれふれ
 ひでりあめ

 トパァス
 サファイヤ
 ダイアモンド


 私の歌声を聞いたあなたは子供のように顔を輝かせた。そうそう、その顔が見たかったの。

 私は蜂雀のようには歌えないし雨も宝石になりはしない。でも、私の心は十力の金剛石に涙した王子のよう。

 夢見るあなたと二人こうしていられることが、どんな宝石よりも大切だから。





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