夏の夜は寝苦しいので、マイは夏になると冷房をタイマーにかけて寝ていた。だがユウの話を聞いてから、マイは夜は冷房をつけないことに決めた。
太陽の匂いがする布団に転がり、翌日の晴天を思い浮かべながら眠りにつく。それはマイにとって初めての、とても幸せな体験であった。
(あ〜、これははまるわ)
午前中の、まだ幾分涼しい風に吹かれながらマイは縁側で髪の毛を自然乾燥させながら揺れる洗濯物を眺めていた。じりじりと暑さが汗を誘うが、そのことすらも気持ちがいい。
(ユウ、まだ寝てるかな?)
両親たちが帰ってくる前にもう一度だけあの寝顔を拝んでおこうと、マイはこっそり家を抜け出した。濡れたままの髪にタオルを巻いたままマイが隣の隣に侵入すると、しかしユウは起きていた。
「……どんなカッコ?」
ユウに呆れ顔で言われ、マイは頭のタオルを回収する。
「ちぇ。起きてるし」
「何が?」
ユウは怪訝そうな顔をしたがマイは答えず、ソファに座る。マイが隣に腰を下ろしたのでユウは少し身を引いた。しかしマイは気にせず、ユウに顔を近づける。
「ユウ、眠くない?」
「……眠くない」
そうは言っているもののユウの瞼は重く、明らかに無理をしている様子であった。くすりと笑い、マイはユウの腕を引く。
「やめろよ」
「いいから。寝なさい」
口では抵抗しつつもソファに転がるとすぐ、ユウは目を閉じた。眠りに落ちるまでが見事なほどに短く、ユウからは規則正しい呼吸が聞こえる。
(かわいい)
学校の誰も知らない、ユウの子供のような一面。幸せそうな寝顔を見ていたら自分も眠くなってしまい、マイは心地よい夏の風に身を委ねた。
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