Loose Knot

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クリスマスの夜に


 ひとしきりホームパーティーを楽しんだ後、街中に佇むライトアップされたクリスマスツリーを見に行こうという話になり、一行は国松家を後にした。夜は二人で過ごすという久本と貴美子とは国松家を出た時点で別れ、総勢六名での移動である。団体行動に慣れていないユウは集団から少し離れて歩いていたのだが、やがて一緒に行動している者達が足を止めたのでつられて立ち止まった。

 雑踏の中に出現していたのは、色とりどりの電灯が巻きつけられた巨大なもみの木だった。今日がクリスマス当日ということもあり、吐き出す息が凍り付いてしまいそうな寒さでも、もみの木の周辺には人だかりが出来ている。冷え込んでいるからこそイルミネーションも美しかったが、あまりの人出に辟易してしまったユウは口元をマフラーに埋めながらため息をついた。

(寒い……)

 そして寒いと、眠い。暖かい布団が恋しくなってきたのでそろそろ帰ろうと、ユウは周囲を見回す。しかしいつの間にか、一緒に来ていた者達の姿はなくなっていた。

(……はぐれたか)

 一応探す素振りだけはしておこうと思い、ユウはツリーの周りを一周した。だが本格的に探そうなどという気はさらさらなく、一周しても見付からなかったので素直に踵を返す。しかしツリー周辺の雑踏を抜け出したところで、ユウは同行者の一人を発見してしまった。

 足を止めたユウは声をかけようか迷ったものの、結局のところ彼女の方へ歩み寄った。立ち止まったまま一点を見つめていた朝香が、近付いて来る人物に気がついて顔を傾ける。ユウの姿を認めると、朝香は自ら声をかけてきた。

「どこ行ってたの?」

「はぐれたから、探してた。俺、そろそろ帰る」

「……そう」

 浮かない顔をしている朝香はユウから視線を外し、先程まで顔を傾けていた方へ目を戻した。つられるように朝香の視線を辿ったユウは、その先に見知った人物の姿を見つけて微かに首を傾げる。ユウ達よりも人込みから遠ざかった場所にいるマイと渡部は、二人きりで何かを話しているようだった。

「行かないの?」

 二人の姿を遠目から眺めているだけで朝香が動こうとしないので、ユウは素朴な疑問を口にした。朝香は答えなかったが、やがて渡部が立ち去ったのを見て歩き出す。帰ろうと思っていたユウも、何となく彼女の後を追った。

「朝香……」

 こちらに気がついたマイも、何故か浮かない様子で朝香に声をかけている。朝香は何も言わずに渡部が去った後を見つめていたが、やがて彼女はマイに視線を戻した。

「行くね」

「あ、うん……」

 歯切れの悪いマイの返答にも無表情のまま応え、朝香は渡部が去った方角へと走り去って行った。何か深刻そうな雰囲気は感じ取ったものの訳が分からず、ユウはマイを振り返る。

「何かあった?」

「ああ、うん……渡部くんに怒られちゃった」

「何で?」

「朝香と二人きりにしてあげようと思ったら気付かれちゃって、余計なことするなって言われちゃった」

「あ、そう……」

 何とも言えぬ気分になり、ユウはそれだけを口にした。マイも口を噤んだので静寂が訪れる。何となく気まずい沈黙はしばらく続いていたが、この寒空の中立ち尽くしていてもどうしようもないのでユウの方から口火を切った。

「俺、帰るけど。マイはどうする?」

「私も帰る。朝香も行っちゃったし、国松くんはマルと二人きりになりたいみたいだしね」

 マイが苦笑しながら振り向いたのでユウも苦笑いを浮かべた。きっと今頃、国松はラストスパートというものをかけている真っ最中なのだろう。

「あーあ、朝香に悪いことしちゃった」

 並んで歩き出すなり、マイは沈んだ声で独白を零した。隣を歩くマイを振り向いたユウは、彼女の浮かない表情を見て思ったままを口にする。

「お節介」

「……そんなハッキリ言わないでよ」

 自分でもそう思って後悔してるところなんだからと、マイは言う。ユウは小さくため息をつき、それから言葉を続けた。

「自分のことじゃないんだからほっとけばいい」

「なるようにしかならい、って? ユウも久本と同じこと言うんだね」

「マイだって、誰かに余計なことされたら嫌だと思わないか?」

「……思う」

 ユウの言葉にあっさりと同調し、マイは苦笑いを浮かべた。それから気分を変えるように「やめやめ」と叫び、マイは表情を明るくする。

「せっかくのクリスマスなんだからさ、どっかでケーキでも食べて帰らない?」

「国松の家でも食べたじゃん」

「たまには一日に二、三個食べたっていいじゃん。行こうよ、ね?」

「太るぞ」

「よけーなお世話!」

 ふいっとそっぽを向き、マイは帰り道から外れた方へと歩き出す。心は布団に引き寄せられていたもののマイがまだ落ち込んでいるようだったので、ユウは仕方なく彼女の後を追って再び雑踏へと足を向けたのだった。






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